「一人法務」採用企業の動向と 求職者の適性|法務・パラリーガル・弁理士・知的財産の転職・求人情報なら「法務求人.jp」

agent秘話

「一人法務」採用企業の動向と 求職者の適性

目次
  • 「一人法務」の実情

  • 「一人法務」のやりがい

  • 「一人法務」の留意点

売手市場と言われる昨今において,法務職もご多分に漏れず求人過多の状況が続いており,そのなかでも「一人法務」の求人は増えてきている。本稿では,弁護士・法務領域に特化した人材エージェント会社で多数の就職・転職支援に立ち会ってきた小職が,人材コンサルタントの立場から,「一人法務」の実例を交えながら採用企業・求職者の実態をお伝えしていきたい。

当社は弁護士・法務に特化した人材エージェント会社として2007年に設立し13期目を迎えている。おかげさまで,登録者数は2019年7月現在で12,000名を超え,専門特化型の強みを生かし,多くの方々の就職・転職活動の支援に取り組んできた。また,多数の企業様・法律事務所様とお取り引きをさせていただき,リーマンショック以降,ここ数年の超売手市場と言われるまでの雇用情勢の移り変わりを経験してきた。
そのなかで,企業の法務部門を取り巻く環境の変化は特に大きかったと言える。具体的には,事業のグローバル化,多様化,複雑化から高度な経営判断が求められるようになり,それにあわせて法務の果たす役割が従前に比して,ますます重くなってきていることを実感している。
そのため,法務部門の陣容・体制の強化に取り組む企業がここ数年で飛躍的に増えてきたことが特筆される。
たとえば,ある企業は業務量の増大に伴い人員そのものを増やす=マンパワーを強化したり,ある企業では弁護士資格者を採用し組織全体のボトムアップを目指す等,各社が置かれている状況に則したさまざまな対応をしてきている。
また,企業の組織体制の面からみると,総務部等他部門のなかで,いち担当業務だった法務機能が切り出され,法務部門として独立し機能拡充を図る等,上場企業・大企業・ベンチャー企業といった会社の規模にかかわらず,自社の法務部門を強化していくことは喫緊の課題となっているようだ。

「一人法務」の実情

「一人法務」と言っても,各社によってその様相はまったく異なり,当社に相談をお寄せいただく法務人材採用の募集背景からもそれは一目瞭然である。具体的には,以下のような事例があったのでご紹介する。

1 法務兼任から選任へ
これまで法的素養を有しない他部門の者が法務業務を兼任してきたが(=言葉を選ばずに言うと片手間でやってきた),そろそろ立ち行かなくなってきたので法務専任者を採用し,これまでの業務をすべて引き継ぎたい。
特に,役員・部門長クラスが兼任している場合は,一刻も早く法務業務を切り出したい,という意向が強く,採用を急ぐケースが多い。歴史ある老舗企業・上場企業から中小企業まで,さまざまな企業からご相談をいただいた。

2 丸投げから内製化へ
これまで顧問先の法律事務所にすべてお願いをしてきたため,各部門で発生する日々の法律相談や取引先との契約書チェック等,組織的・体系的に取り組むことをしてこなかった。さらには,各部門が各々で顧問の弁護士に直接お願いしているため,どのような契約書が締結されているのかも一元管理できていない状態(=言葉を選ばずに言うと丸投げ状態,放置状態)である。ただ,このような状況では,経営のリスク管理がまったくできず,自社に法務業務のノウハウが溜まることもないため,危機感を持った経営陣が一刻も早く法務専任者を採用し,業務をできるだけ内製化させたい,というご相談をいただいた。

3 成長路線に対応した基盤整備
設立間もないベンチャー企業で,顧問先の弁護士のアドバイスをもらいつつ,まずは事業を軌道に乗せ,ビジネス規模を拡大することを優先にひたすら取り組んできた。創業期から成長期に移ってきたところで,IPOを実現しさらなる事業の飛躍を目指すことになった。そこで,満を持して法務部門を立ち上げ,IPOに向けた自社の基盤整備に取り組むとともに,新規事業・新サービスの立上げにも法務の立ち位置から積極的に関与し,企業の成長にダイレクトに貢献してほしい,そんな人材を採用したい,とのご相談をいただいた。

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もちろん,「一人法務」がすべてこのような事例であるとは限らないが,共通していることは,取り巻く経営環境があまりにも大きく変化してきたため,これまでの体制・仕事のやり方が通用しなくなった,という点にある。

「一人法務」のやりがい

「一人法務」とはその言葉どおり,所属する企業の法務マターすべてに一人で関わることを意味する。通常は,マネジメントの観点からレポートラインとなる上長は存在するだろうが,実態としては,自分がたった一人のプレイヤーとして会社の法的側面を支えていくことに変わりはない。そのような一人法務の業務を通して得られるやりがい・メリットには次のようなものがあげられ,それがそのままフィットする人材像(気質・志向性等)につながると言える。

1 経営に近いこと
大手企業の法務部門はそれなりの人員体制を擁し,業務も細かく分業化され機能的な組織運営を行っているところが多い。それゆえ,意思決定プロセスは段階を踏むため,ヒエラルキー構造が明確な組織であればあるほど,若手社員が経営に直接提言をしたり,あるいは重要案件に関与する機会はなかなかめぐってこないものと思われる。他方,「一人法務」の場合は,とすれば社長直下に置かれ,役員と丁々発止する機会が多くなるため,経営に非常に近い立ち位置で業務にあたることができるのが最大の魅力と言える。これは,法務という立場から経営に関与する=より視座の高い判断が求められることを意味し,「一人法務」ならではの醍醐味である。場合によっては,法務という枠を越えて,社長・役員と新たなビジネスを創出する事業プロデューサー的な業務に携わるチャンスがあるかもしれない。

2 オールラウンドプレイヤー
「一人法務」はすべての法務業務に関わることになる。ということは,カバーする(しなければならない)領域が広範囲にわたることを意味する。具体的には,日々の契約書の審査・作成,法律相談対応,知的財産関連の案件,訴訟・紛争対応,コンプライアンス対応,上場企業であれば株主総会対応・取締役会対応等,およそ自社で発生するあらゆる業務に従事することになる。これは分業化された法務組織ではなかなか経験できないことであり,オールラウンダーとしての成長のスピードが一気に高まることが期待できる。
また,他部門との協業も当然のことながら頻繁にあるため,みずから先頭に立って主体的に取り組むことで,自社を俯瞰的にみる力=経営視点が養われる。

3 明確なキャリアパス
「一人法務」ということは,自分が所属する会社の法務責任者であるともいえる。もちろん,担当役員等の上長がいる間はプレイヤーではあるが,たとえば,組織・機能が切り出されたときには,法務部門をとりまとめる責任者として一気に管理職へと駆け上がることがある。
年功序列の慣習が残る大企業・大組織では,自分にそのような役割が回ってくるのはずっと先になるため,「一人法務」はキャリア形成の面から得られるものが多いと思われる。
また,ベンチャー企業の早期メンバーとして参加することができれば,自分のステージが上がることで得られる報酬が増え,IPOの際にはさらに得られるものが大きい。

「一人法務」の留意点

以上のように,「一人法務」のやりがい・メリットを述べてきたが,もちろんそればかりではなく,留意しなければならない点もある。「留意する」とはつまり,一般的な法務部門と「一人法務」の違いをきちんと把握し,自分自身に置き換え,そこで働くイメージが持てるかどうか,ということにほかならない。
たとえば,専門性をひたすら追求し高みを目指すような職人気質なキャリア志向の方には,「一人法務」のポジションはそぐわないかもしれない。なぜならば,「一人法務」ではジェネラリスト的な動きが求められ,あるいはビジネスをドライブしていく商人気質が求められることが多いからである。
ここで,企業と転職希望者の橋渡しをしてきた人材エージェントの立場から,その他アドバイスできるポイントをあげてみたいと思う。

1 みずから考え,行動していく力が必要
「一人法務」は,組織体制がほぼ完成され,日々の業務のフレームワークも整い,教育体制・研修体制が完備された法務組織とは,ともすれば真逆の環境であることをしっかりと理解しなければならない。
たとえば,極端な例かもしれないが,「一人法務」として転職した先の環境に,契約書のひな形がない,情報管理体制も整備されていない,マニュアル化された業務フローもない場合には,入社間もない自分がすべて構築しなければならない。しかも往々にして成果出しのスピードが求められることが多い。あるいは,何か問題が起きたとき・わからないことがあったとき・困難に直面したとき,誰に聞いてよいかもわからず,そもそもアドバイスを得る人が身近にいないかもしれない。
そのような局面に置かれたときに,状況によってはすべて自分で判断し解決しなければならない。
また,常にそれらに関わる責任を感じ,跳ね返ってくる重圧に耐えなければならないことを理解する必要がある。

2 他責でなく自責で捉えられるか
企業がはじめて法務専任者を採用し,法務部門を立ち上げる場合,そもそも採用基準が明確ではなかったり,任せる業務内が曖昧なことがあり得る。その結果として,社内のコンセンサスが取れていない・周りの社員からの協力がなかなか得られないことがあるかもしれない。
他には,日々の業務が我流になってしまわないか,器用貧乏になってしまわないか,自分のジャッジが本当に正しいのかどうか,不安に苛まれてしまうことがあるかもしれない。
そのような局面になったとき,自分が置かれた環境のせいにしてしまうのか,あるいは自分の至らなさが招いた結果と捉えることができるのか,その状況を打破するために何をすべきかを考え行動に移すことができるのかどうか。業務を継続していくうえでこの分かれ目はとても重要である。
これらのような「一人法務」の逆境をあえてチャンスと捉え,自己の成長の機会に転化した方が過去にいたので,好例としてご紹介したい(誰もができるやり方ではないかもしれないが,ぜひ参考にされたい)。
その方(A氏)は,法務が新設される企業に転職を果たしたところ,まずは社内で孤立しないように何でも積極的に取り組んでいくことを決めた。具体的には,入社当初から,営業部門を中心に他部門との密なコミュニケーションを取り続けることに注力し(飲み会や社内イベントにどんどん参加し,社内営業に徹した),自分の居場所・仕事の下地を作ることに取り組んできた。
そのうちに,どんなに些細なことでも自分に相談しに来てくれるようになり,また,部門間の調整もスムーズにできるようになったので,最終的には,「法務のAさんにお願いすれば何とかしてくれそう」,「法務のAさんが言うことなら仕方ないよね」となるまでの信頼関係を作ることができたとのことである。
会社のなかでリスクが野放しになる状態を防ぐ一方で,他部門の方々が自分にとって絶対的なクライアントであることを肝に銘じ,現場のビジネスを後押しするために何ができるのか,「法務は自分一人しかいない」という覚悟を持って行動してきたことが大きなポイントになったと言える。
また,法務としての自分の仕事の品質を担保するために,顧問の弁護士と仲良くなる等,外に飛び出してひたすら人脈作りに取り組んだ方もいた。社内弁護士であれば,日本組織内弁護士協会(JILA)に入会することで,もしかしたら自分と同じ悩みを持ち,それを乗り越えてきた先輩弁護士とめぐりあうことができるかもしれない。
自分一人で問題を抱え込むことなく誰かに相談できるような状態になれば,「一人法務」の悩みも解消されるのではないだろうか。

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ひょっとすると「一人法務」に対してネガティブなイメージを持つ方がいらっしゃるかもしれない。しかしながら,その特徴を正しく理解し,自身のキャリアビジョンと合致する環境で,相応の覚悟で取り組むことができれば,これほどやりがいのある業務はないと思う。
本稿が,「一人法務」の最前線で奮闘されている皆さん,あるいは「一人法務」への転職をお考えの皆さんにとって少しでもお役に立つことができれば幸いである。

記事提供ライター

記事提供:社内エージェント

大学卒業後,大手金融機関を経て,1997年株式会社クリーク・アンド・リバー社に入社。
以来,一貫して人材ビジネスに従事。2011年弁護士・法務領域に特化した
株式会社C&Rリーガル・エージェンシー社に移籍後も多数の方をサポートしてきた実績を有する。

※寄稿記事となります。
2019年10月 Vol.19 No.10「ビジネス法務」

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