業界トピックス
企業法務の「コンプライアンス法務」とは?資格・実務内容・求められるスキルを初心者にもわかりやすく解説
- 目次
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コンプライアンス法務とは?企業における基本的な役割と位置づけ
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コンプライアンスが重視されるようになった背景とは?
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コンプライアンス法務の実務内容と関わる業務領域
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業界ごとに異なるコンプライアンスの特徴とは?
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コンプライアンス法務の面白さ・やりがい・注意点
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コンプライアンス法務に必要な資格・スキル・向いている人とは?
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法務職を目指す方へ:C&Rリーガル・エージェンシー社で次のステップ
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企業活動における「コンプライアンス」の重要性が叫ばれて久しい昨今。
法令遵守だけでなく、社会的責任や倫理的な行動が企業評価に直結する時代となり、「コンプライアンス法務」は組織運営に欠かせない法務分野として注目を集めています。
本記事では、コンプライアンス法務の具体的な業務内容や役割、求められるスキルやマインドセットを、未経験者にもわかりやすく解説します。
なお、企業法務全体の分類や他の分野(予防法務・戦略法務・商事法務・臨床法務)については、以下のまとめ記事で詳しく紹介しています。あわせてご参照ください。
「企業法務の業務内容とは?5つの分類(予防・臨床・戦略・商事・コンプライアンス法務)を未経験者にもわかりやすく解説|転職前に知っておきたい基礎知識」
コンプライアンス法務とは?企業における基本的な役割と位置づけ
コンプライアンス法務とは、企業が法令・社内ルール・社会的規範を遵守しながら適正に運営されるよう支援する法務機能のことです。
法令そのものを理解するだけでなく、それを「社内ルールに落とし込み、社員全体に理解・定着させる仕組みを作る」ことが、コンプライアンス法務の本質といえます。
たとえば、労働関連法や景品表示法、下請法、個人情報保護法、海外の腐敗防止法など、企業活動にはさまざまな規制が関わります。これらの法令違反を未然に防ぐために、
・社内規程の整備
・従業員研修や啓発活動
・内部通報制度の整備
・定期的なモニタリング・監査
・不祥事発生時の初動対応
などを通じて、組織としての「法令順守体制」を維持・向上させていくのが、コンプライアンス法務の役割です。
■企業における“ルールづくり”と“ルールを守らせる”役割
コンプライアンス法務は、単に「違反がないかを監視する」部署ではありません。
企業活動の前提として、「どういう行動が適切なのか」「どのようなルールを守らなければならないのか」を明確にし、そのルールを現場に浸透させていく“ルールの設計者”かつ“推進者”でもあります。
ルールは作るだけでは機能せず、周知・研修・実行支援を通じて組織文化として根づかせる努力が不可欠です。
この意味で、コンプライアンス法務は法令の専門家であると同時に、「組織に行動変容をもたらす専門家」としての役割も果たしています。
■予防法務・戦略法務との違いと重なり
予防法務が「契約書や制度の設計を通じてトラブルを未然に防ぐ」ことを目的とし、戦略法務が「M&Aや事業提携など経営戦略に関与する法務」であるのに対し、コンプライアンス法務はより組織的かつ継続的な「統制」を重視する分野です。
業務上のリスクが表面化する前に、組織内部のルールや仕組みに働きかけて問題を防止するという点で、予防法務と重なる部分もあります。
しかし、コンプライアンス法務はより「全社的な仕組みづくり」や「ルール運用の定着」までを含むため、広い視野と社内外との橋渡し力が求められる点が特徴です。
コンプライアンスが重視されるようになった背景とは?
コンプライアンスという言葉が企業の現場で日常的に使われるようになったのは、ここ20年ほどのことです。かつては「法令違反さえしていなければ問題ない」とされていた時代もありましたが、現在では企業に求められる「法令遵守」の水準が大きく変化しています。
背景には、国内外の重大な不祥事の相次ぐ発覚や、投資家・消費者の「企業倫理」に対する関心の高まり、さらには規制当局による介入や制裁の厳格化といった要因があります。
■企業不祥事の相次ぐ報道と社会的責任の高まり
製造業における検査データ改ざん、不適切な会計処理、パワーハラスメント、情報漏えい、粉飾決算、反社会的勢力との関係など、企業不祥事は業界や規模を問わず起こりうるものとなっています。
そして一度問題が発覚すれば、株価の急落、取引停止、経営陣の引責辞任、ブランド毀損、社会的信頼の喪失など、企業にとって極めて大きなダメージが発生します。
このような事例を経て、企業に求められるのは単なる「法令違反の防止」ではなく、企業活動の全体にわたる倫理的な健全性の確保へとシフトしています。
結果として、コンプライアンス法務の重要性も格段に高まっています。
■内部通報制度・ESG・海外当局の介入など時代の変化
現代の企業法務は、単に国内法だけを見ていれば足りる時代ではありません。
たとえば米国のFCPA(海外腐敗行為防止法)や、欧州のGDPR(一般データ保護規則)など、海外当局による管轄権が日本企業にも及ぶようになっており、グローバル水準でのコンプライアンス体制が求められる場面も増加しています。
また、上場企業を中心にESG(環境・社会・ガバナンス)への対応が急速に進んでおり、社内規程や研修制度といったソフトな面においても「ガバナンスの質」が問われるようになっています。
さらには、公益通報者保護制度の見直しや内部通報体制の整備義務化など、社内からの“声”にどう向き合うかも企業にとって大きな課題となっています。
こうした時代背景の中で、コンプライアンス法務は企業の「守り」と「信頼」を担保する仕組みづくりの中心的存在となりつつあります。
コンプライアンス法務の実務内容と関わる業務領域
コンプライアンス法務の業務は、法令の遵守を支えるルール設計から、現場への浸透支援、そして定期的な監査・対応体制の整備にまで及びます。
その実務は多岐にわたりますが、すべてに共通するのは企業が不祥事を起こさないための“仕組み”をつくり、運用することです。
■社内ルール整備・研修・モニタリング・監査対応
コンプライアンス体制を構築する第一歩は、社内規程や業務ルールを明文化し、整備することです。
筆者が関与した業務のひとつに、人事規程の見直し・整備や、男性社員の育児休業制度の拡充対応などがありました。
法改正に対応するだけでなく、社内運用上の齟齬やリスクを洗い出し、制度として実効性のある形に再構築する作業は、法的知識と現場感覚のバランスが問われる業務です。
特に育休制度の拡充は、「取得しやすい雰囲気をどう作るか」という文化面の設計も含まれており、制度改正後の社員向け説明資料の作成や上長へのブリーフィングなども担当しました。
また、接待や贈答が社内の贈賄規定に違反していないかのチェックにも携わった経験があります。
これは単なる支出確認ではなく、「相手方との関係性」「費目の妥当性」「繰り返しの有無」などから、企業倫理に照らした判断を行う慎重な業務です。
贈収賄に対する社会的視線が厳しくなる中、経営層からも高い関心が寄せられる分野のひとつです。
加えて、これらのルールを形式的なものにせず、社員一人ひとりの行動に結びつけるには、定期的な社内研修や啓発活動の実施、リスクが高い部署への重点的フォローも不可欠です。
コンプライアンス法務は、単にルールを作るだけでなく、それを「どう伝え、どう根づかせるか」までが仕事です。
■海外グループ会社のコンプラ対応とその難しさ
グローバルに展開する企業では、海外子会社や現地法人のコンプライアンスも重要な管理対象となります。
現地での商習慣と日本の規制との間にギャップがある場合や、言語・文化的な障壁がある場合には、本社主導でのルール統一や教育の仕組みづくりが求められます。
たとえば贈答・接待の基準ひとつをとっても、ある国では「当然の文化」とされる行為が、他国では明確な贈賄行為と見なされることがあります。
そのため、コンプライアンス法務には「現地の慣習やリスクを把握しつつ、グループ全体で共有可能なルールに落とし込む」力が求められます。
■社内での関与タイミングと立場:法務はどこから入るのか
コンプライアンス法務は、後手の対応では本来の機能を果たせません。
規程の設計や社内制度の改定といった制度設計の早い段階から関与することが理想的です。
たとえば筆者が携わった人事制度の見直し案件では、制度設計を主導する人事部門に対して、法改正の解釈やリスクポイントを伝えながら、“制度をどう作れば、社内で無理なく機能するか”を法務の立場から提案しました。
また、コンプライアンス法務は経営陣に対して助言的立場を取る場面も多く、時に“耳の痛い指摘”をすることも必要です。
信頼を失わずにそうした指摘を伝えるには、社内での立場やコミュニケーション力も問われます。
業界ごとに異なるコンプライアンスの特徴とは?
コンプライアンス法務の基本的な考え方や役割は共通していますが、実際の業務内容や求められる対応の重点は、業界によって大きく異なります。
これは、各業界が直面する法規制の内容やリスクの種類、社会からの期待値が異なるためです。
どの業界でも「ルールを守る」ことが大前提ではあるものの、「何をどう守るのか」「誰に対して透明性を示すのか」といった観点には業種ごとの特色があります。
■金融・医薬・製造など法規制の厚みとリスク意識の違い
たとえば金融業界では、資金洗浄防止(AML)や内部者取引防止、適合性原則など、厳格な規制とガイドラインに従った業務運用が必須です。
金融庁や証券取引所による監督も厳しく、わずかな不備が重大な行政処分につながる可能性があるため、コンプライアンス法務の役割も極めて重要です。
一方、医薬品業界では、薬機法や景品表示法に基づく広告規制、臨床試験に関する倫理性の確保、製品の回収時対応など、医療安全や消費者保護に直結するリスクへの対応が求められます。
医師や患者と直接接点を持つ領域であることから、業界特有の倫理基準に沿った行動の管理が必要です。
また、製造業では、サプライチェーンに関する贈収賄リスク、環境規制対応、品質保証に関する内部統制、海外子会社の腐敗防止対応など、“ものづくり”を軸にした広範な法務・倫理リスクが存在します。
■BtoC企業とBtoB企業の対応の方向性
BtoC(消費者向け)ビジネスでは、消費者保護・苦情対応・表示規制がコンプライアンス上の大きなテーマになります。
クレーム対応の不備やSNSによる炎上、カスタマーセンターでの不適切対応が即座にブランド毀損につながるため、現場対応のガイドライン化や社員教育の徹底が極めて重要です。
一方、BtoB(法人向け)ビジネスでは、取引先との契約遵守、業法対応、情報管理や協業時の秘密保持などが主要なリスク領域です。
信頼関係に基づいた取引の中で、万が一の契約逸脱や不公正取引が問題化すると、企業間関係そのものに波及するダメージが大きくなるため、法務が早期に関与することが望まれます。
コンプライアンス法務の面白さ・やりがい・注意点
コンプライアンス法務は「ルールを守らせる」ことに加えて、ルールを組織の文化として根づかせる仕事です。
社会的要請の高まりや企業不祥事への対応など、時代とともに変化する“正しさ”を社内に浸透させる過程には、他の法務分野にはないやりがいと難しさがあります。
■企業の“倫理”を作る手応えと社会的使命
コンプライアンス法務の醍醐味は、「企業にとって何が正しいのか」を言葉と仕組みにしていく、“倫理の設計者”でいられることにあります。
それは単に法律を守らせる仕事ではありません。会社の価値観や社会との向き合い方を、制度というかたちに落とし込み、実行可能なルールとして浸透させていく――それがこの仕事の本質です。
たとえば、男性の育休制度を見直す場面。形式的には制度を変えるだけかもしれません。
しかしその裏には、「この会社で、どんな働き方が尊重されるべきか」「どうすれば誰もが不安なく家庭と両立できるか」といった、人の生き方に関わる選択が詰まっています。
その制度が社員に受け入れられ、実際に取得者が増えていったとき、自分の仕事が誰かの人生にポジティブな影響を与えたのだと、言葉にできない達成感が生まれます。
また、贈賄やハラスメントの防止、社内の通報制度の整備など、組織の中で“言いにくいこと”や“見過ごされやすいこと”にあえて切り込むのも、コンプライアンス法務の重要な役割です。
ときに歓迎されないこともありますが、「未来の不祥事を防ぐ」「社員の安心を守る」ことが自分の仕事であるという誇りは、日々の実務に確かなモチベーションを与えてくれます。
目に見えにくい成果だからこそ、派手な実績にはならないかもしれないけれど、組織の“良心”として信頼される存在であること――それこそが、コンプライアンス法務の最大のやりがいです。
■「正しさ」と「実行可能性」のバランスに悩む場面も
どれほど法的に正しく、理念として崇高なルールであっても、現場で実行されなければ意味がありません。
この“正しさ”と“実行可能性”のバランスをどう取るか。それは、コンプライアンス法務における最も悩ましく、そして最もプロフェッショナルな部分です。
たとえば、贈賄リスクを防止するために接待・贈答のガイドラインを設けるとします。
リスクをゼロに近づけるなら「全面禁止」とするのが一番かもしれません。
けれど、現実のビジネスでは信頼構築や慣習、営業活動の一環としてどうしても必要な場面もある。
その時、いかに現場が無理なく守れるラインを引くか、どうすれば建前で終わらない運用にできるか。
ルールを押しつけるのではなく、現場の声に耳を傾け、リスクと実務の両面から最適解を探る――
まさに、机上の理想論ではなく、“実行されるコンプライアンス”を設計する仕事です。
「こんな細かい文言の違いで、現場の理解度がまったく変わる」
「“やらされ感”を排除して、自分たちの行動基準として腹落ちさせるESGには?」
そう自問しながら、何度も何度も表現を練り直す過程には、派手さはないものの、高度な知的労働の醍醐味があります。
ルールの正しさと、組織のリアリティをつなぎ直すこと。それが、コンプライアンス法務という仕事の奥深さであり、挑戦しがいのある魅力でもあります。
コンプライアンス法務に必要な資格・スキル・向いている人とは?
コンプライアンス法務は、法務分野の中でも「制度」と「人」、両方を動かすバランス型の職種です。
高い法律知識を要する場面もありますが、それ以上に、組織の中で信頼され、ルールを“実行されるもの”に変えていく力が求められます。
ここでは、必要な資格・スキル・マインドセット、そしてこの仕事に向いている人の特徴について整理します。
■資格は不要!誰でも挑戦できるが努力は必要
まず大前提として、コンプライアンス法務に国家資格は必要ありません。
弁護士資格がなくても、企業内で経験を積みながらキャリアを築くことができます。
実際に、多くのコンプライアンス担当者は、法務部門・人事部門・監査部門などからの異動や兼任からスタートしています。
それだけに、業務経験を通じて「現場感」と「仕組みづくり」の両面を磨く意欲があるかどうかが、何より大切です。
また、将来的にリスク管理部門や海外グループ会社のコンプラ統括、社内監査部門へのステップアップを目指すことも可能であり、法務キャリアの広がりを支えるフィールドとしての側面もあります。
■社内外と信頼関係を築けるコミュニケーション力
コンプライアンス法務の多くの業務は、「誰かと対話しながら進める仕事」です。
社内規程の改定、研修の企画、贈答対応の相談、通報対応。どれも一方通行では成り立ちません。
特に注意が必要なのは、「ルールを守らせる」立場でありながら、決して高圧的ではいけないという点です。
むしろ、現場の担当者や役員から「この人に聞けば、納得のいく答えが返ってくる」と信頼される存在であることが、長く活躍するための条件です。
つまり、信頼関係の上に成り立つ“柔らかい法務力”が、コンプライアンス法務のコアスキルといえるでしょう。
■ルールを現場に落とし込む“伝える力”と“工夫力”
優れた制度を作っても、それが伝わらなければ意味がありません。
コンプライアンス法務では、「誰にでもわかる言葉で伝える力」や、「仕組みとして日常業務に溶け込ませる工夫力」が非常に重要です。
たとえば、接待・贈答に関するルールを伝える場面では、
・「何がNGか」だけでなく「どう判断すればよいか」までを説明する
・実際の事例を交えて研修資料を作成する
・チェックリストやワークフローなど“使えるツール”に落とし込む
といった工夫を積み重ねることで、ようやくルールが「現場で使われる」ものになります。
こうした“伝え方設計”のセンスや、現場視点での思いやりのある運用支援こそが、コンプライアンス法務の真骨頂です。
■リスク管理・監査・海外対応へのキャリア展開も可能
コンプライアンス法務の経験は、その後のキャリアにも幅広く活かせます。
・リスク管理部門や経営企画との連携強化
・海外子会社・グローバルガバナンス体制の構築
・内部監査部門での業務監査や再発防止提案
・ESGやサステナビリティ推進チームとの協働
など、会社の中枢的なポジションに近づいていく道筋も多く、将来的な管理職・統括ポジションにもつながります。
「目立つことは少ないが、組織の根幹を動かす仕事がしたい」
そう感じる方には、コンプライアンス法務は最適なキャリア選択肢といえるでしょう。
法務職を目指す方へ:C&Rリーガル・エージェンシー社で次のステップ
コンプライアンス法務は、企業が社会の中で持続的に活動していくための“基盤”を支える仕事です。
華やかさはないかもしれませんが、ルールを形にし、それを社員に伝え、守られる仕組みを作っていく――その一つひとつが企業の信頼とブランドを支えています。
未経験から挑戦する方にとっては、「法務の中でも最も人と関わる分野」として、学びながら育っていける環境があります。
経験者にとっても、将来的にリスク管理・ガバナンス・監査・海外対応など、キャリアの幅を広げていける実践的なフィールドです。
ただし、コンプライアンス法務の業務内容や役割は、企業の業種・規模・体制によって大きく異なります。
「教育・制度・監査のどこに力を入れているのか」「法務部の中に位置づけられているのか、リスク管理部門なのか」といった社内構造によって、求められるスキルも働き方も変わってきます。
C&Rリーガル・エージェンシー社は、法務・知財・弁護士分野に特化した転職エージェントとして、企業ごとの組織体制や法務業務の実情を的確に把握し、あなたに最適なポジションをご提案します。
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